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Friday, January 18, 2008




マス教授
Mathだけにマス教授
どうもGoogleで「アメリカ ゆとり教育」を検索するとこの記事が上位にくるらしい。Youtubeのビデオ貼付けておくだけというのも何なので、内容の要約を簡潔に書き出してみることにする。

登場するのはワシントン大学大気科学部のクリフ・マス(Cliff Mass)教授。ゆとり教育に嘆いている日本の大学教授と同じようなことを、このマス教授も嘆いている。それで先の記事の題名にも「ゆとり教育」と入れたのだけれど、マス教授が批判しているのは主にワシントン州における数学カリキュラムについて(アメリカには日本の文科省に当たる省庁は無く、教育行政は州ごとに行われている)。これが「reform math」「constrictivist math」あるいは「fuzzy math」(ファジーな数学)などと呼ばれている。

マス教授はワシントン大学で25年間、天気予報や大気の数値的シミュレーションの研究をしていて、学部生向けに大気科学の入門コースも教えている。10年くらい前から、ワシントン大学の新入生における数学能力が著しく低下してきていることにマス教授と大学の同僚達が気づきはじめた。今の学生は、80年代の学生なら苦もなくこなしていた単純な代数や分数の問題を解くのも困難になりだしている。結果、教授の大気科学コースはレベルを落とさざるをえなくなってしまう。

学力低下の客観的証拠の一つとして、ワシントン大学で1990年から1999年の間に行われた前・微積分能力判定試験(pre-calculus assessment test)において、平均点がどんどん落ちて来ていることが挙げられる。あまりに点数が悪くなりすぎてしまったので、1999年からはより簡単なテストに変えるはめに。

マス教授が大気科学入門コースをとっている生徒に中学レベルの数学テストを課してみたところ:

  • 2-2 = 1/4の正答率は45%。

  • コサインの定義が分かるのは64%。

  • y= x (1-x)の方程式が解けるのは14%。

他にも:

  • ワシントン州の大学生の30%が補修数学コースを必要としている。

  • ワシントン州における数学家庭教師産業の収益は1994年から2004年の間に340%アップ。

  • ワシントン州の高校生の40%がWASL (Washington Assessment of Student Learning、ワシントン州の学力検定試験)の数学(ごく基本的なもの)を2回受験してもパスできない。

  • 数学能力を要求される技術職を外国人にどんどん取られていってる。

などの現象が起こっている。

fuzzy math
ワシントン州に限らず全米で問題になっている。これはニュージャージー州の小学校3年生用のreform math問題:「クローゼットにペーパークリップの入った箱が25箱あります。それぞれの箱にはクリップが100個入っています。私は1つの箱からクリップを50個取り出しました。クローゼットには何個クリップが残っているでしょう?」「貴方がこの問題をどうやって解いたか示してください。貴方の考えを言葉でも説明してください。例えば、貴方はどのようにして問題をその方法で解けると分かりましたか?」(New York Times, June 14, 2007)「25*100-50=2,450」と数式を書くだけでは駄目らしい。
原因は何なのか? 最近の生徒の知能が劣るというわけではない。むしろ新入生の高校時代の成績(GPA)は上がってきている(アメリカの大学入試においては高校の成績が重きをなす)。数学力のみ落ちてきている原因は、1989年から導入されたThe National Council of Teachers of Mathematics(NCTM、全米数学教師協議会)の学習指導要領にあるとマス教授は言う。これは、生徒が先生に一方的に教えられるのではなく、生徒が自ら数学の原理を発見するように奨励し(ディスカバリー・アプローチ)、長除法(割り算の筆算、余りの数などの計算過程を書きながら計算を進める方法)などの確立した算法はないがしろにして計算機の使用を勧め、練習を重ねて習得するということをさせず、代数・幾何学を軽んじている。

このNCTM要領に沿った教科書が1990年代よりアメリカ全土で採用されはじめる。ワシントン州他で広く使用されているNCTM準拠の代表的教科書:TERC InvestigationPearson Connected Math Program (CMP)McDougal-Littell Integrated MathInteractive Math Program (IMP)Everyday Math。この全ての教科書がNCMT要領の欠点を共有している。代数・幾何に関する多くのトピックが欠けており、生徒は分数、等式の操作、三角関数、基本的な計算法を習得できない。ワシントン州などではNCTM要領を反映するようにカリキュラムも修正された。

これが教授自身の息子の数学教育にも悪影響を与えることになってしまう。教授の上の子が中学、高校で使った数学教科書はMcDougal-Littell Integrated Math。この教科書は、様々なトピックを狂ったように行ったり来たりするため、生徒が一つも満足に習得できない。内容は一貫性を欠き、論理的な発展学習が不可能。その内容はあまりに酷く、教授は心配になって夜には子供といっしょに勉強し、家庭教師を雇い、公文式に通わせたという。

下の子は高校でInteractive Math Program (IMP)を使用。この教科書の中には数式がほとんど出てこない。生徒が自分で数式を発見するようになっていて、その中身は「観覧車から飛び降りてみる」などといったテーマに沿って書かれている。重要な数学的原理をスルーしていて、息子はこれではやりがいが無いと感じ、もっと学びたい、本当の数学を学びたいと嘆いたという。

National Research CouncilがNCTMプログラムの効果を検証するために委員会を設立。K-12 (幼稚園から高3年まで)の数学教育の質を査定するため、19のNSF(National Science Foundation)主導のNCTMプログラムについて147の研究を行った。結果は、同カリキュラムの有効性を示すデータはいっさい無し。

William Hook、Wayne Bishop、John HookがEducational Studies in Matics誌で発表した研究によると、カリフォルニア州がreform mathから数学テスト上位国のカリキュラムを反映したものに変えたところ、生徒の成績が格段に向上したという。学力向上は特に社会的に恵まれない生徒(less advantaged student、貧困層の子弟)の間で顕著であったという。

フォーダム財団(Fordham Foundation)がアメリカ中の数学カリキュラムを調査したところ、ワシントン州はF(落第、不可)ランクだった。

現行のワシントン州の学習指導要領はお粗末に書かれたもので、必要以上に分量が多く、時に数学と何の関係もないことにまで言及している。

ワシントン州における学生の数学力の低下はreform math導入と共に始まっており、これは偶然ではない。

では、どうやってこの惨事(disaster)を解決すべきか?:

  1. 国際数学試験TIMSS(Trends in International Mathmatics and Science Study)などで好成績を残している国で使われている、国際的に競争力のある数学指導要領の導入。カリフォルニア州が1990年代初頭にreform mathを導入して破滅的な惨事を招いた後、1998年よりこれを行い、今ではポジティブな結果を出し始めている。

  2. 数学者、保護者、数学教育者からなる独立した監視委員会を設置して、新しいワシントン州数学指導要領を作成。各地域における教科書採択についても監視するカリキュラムを作成。この委員会は、reform mathの主要な支持者でロビイストであるOffice of the superintendent of Public Instruction(OPSI)からは完全に独立したものとする。

  3. Iowa Test of Basic Skills (ITBS)のような、全国基準の学力査定を再設置。現行のWASLは非常に高価で、致命的欠陥があるので、中止。他の州の生徒の出来と比較できる試験が必要(WASLでは無理)。

ということで、みんなでワシントン州議会に働きかけましょう、と教授は訴えている。

さらに詳しい情報はwheresthemath.comを参照とのこと。

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